- NOVEL
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奥さまは小悪党
嫌な予感はしていた。電話口の男のこもった声、やけに切羽詰まった、選択を許さない脅迫めいた物言い。そういう時は、大抵ろくでもない仕事のことが多い。
そうはわかっていたが、仕事は仕事だ。商売を始めたばかりで、信用を落とすわけにもいかず、俺は仕方なく、エッジの道をフェンリルで走った。
街は、日々成長している。昨日はガレキの山だった箇所が、今日は道になっている、なんてことも少なくはない。
特に、このあたりは変化が顕著で、日々通っていないと、迷子になってしまうことも多い。そんなゴミゴミした一角を待ち合わせ場所に指定するあたり、やはり、客はろくでもない人間のようだ。
「お前が、配達屋か?」
待ち合わせ場所にいた男は、くぐもった声で尋ねた。電話の声の男だ。彼は、顔を見せないためにか、深くフードを被っていた。
「用件はなんだ?」
周りに、人の姿は無い。けれど、遠巻きに様子を窺っている、汚い呼吸は隠せていない。
「あんたに、逢いたがっている人がいる」
「断る。俺の仕事は、荷物の配達だ」
「残念ながら、あんたに拒否権はない」
男がフードを脱いだ。それが合図だったのか、ガレキの隙間から、隠せない気配をかもしだしていた連中が、わんさと飛び出してきた。
俺は、ため息を漏らした。やっぱり、ろくでもない仕事だった。いや、仕事ですらないようだ。
いくら人数を集めてみても、気配を断つこともできないことを考えれば、俺に敵う奴らじゃない。さっさと終わらせて、セブンスヘブンへ戻らなければ。
「おっと、動くなよ。たとえ元ソルジャーでも、鉛玉はキツいだろ?」
ニタニタ笑う男たちに囲まれて、俺の指は固まった。だが、こいつらの意表をついて始末するくらい、わけはない。
しかし、先手を打たれてしまった。ガレキの山の一番上に、夜の光を集めて煌めいたハゲ頭に、俺は目を奪われた。
「ほひ」
独特の笑い方、腰を揺さぶる奇妙な行動。嫌な予感は的中した、あんなやつ、あいつ以外にいるはずがない。
「久しぶりだの~、クラウドちゃん」
バカとナントカは高いところが好きだというが、奴もその一人だったようだ。ガレキの上で大げさに体を揺らし、バランスを失くして、そのまま尻から転げ落ちた。
ドン、と、大きな音を立てた男に、周りの連中が、『ドン!』と騒いで集まっていく。なんだ、この小芝居は。俺は呆れて、この場を離れるタイミングを見逃してしまった。
「お前……、生きてたのか」
今はなきミッドガル、六番街スラム、通称ウォールマーケット。その奥を陣取って、こずるい商売で悪趣味な御殿を建てていた小悪党、ドン・コルネオ。ウータイでの崖から落ちて、お陀仏したかと思ったが、まさかこんな形で再開することになろうとは。
「ふん。あれから俺がどんなに苦労したかお前にはわかるまい。そう、話せば長くなるけれど……」
「興味ないね」
しんみりとしたムードを切り裂くように、冷めた声で言い放った。相手が奴だとわかったから、もうこれ以上この場に留まる必要もない。
「相変わらずだの~。あの時はあんなにかわゆかったのに」
「帰るぞ」
「ちょっと待った!」
二年前、奴に気に入られる為に恥ずかしい恰好をした記憶など、さっさと消し去ってしまいたい。踵を返した俺に向かって、連中は下ろした銃口を突き付けた。
「探したぜ~クラウドちゃん。エッジの掲示板でお前のチラシを見つけた時は、運命だと思ったぜ!」
最初は派手な方がいい、と、マリンたちの口車に乗せられて、ばら撒けるだけばら撒いたのが逆効果になったようだ。ため息を漏らし、振り返って睨みつける俺の視線を恐れずに、奴はぺらぺらとしゃべりだした。
「花ヨメ探しは邪魔されるわ、メテオは降ってくるわ、俺の人生はお前のせいでメチャメチャだ」
奴の言い分は、半分は正解だった。奴が知っていたかどうかはわからないが、確かに、メテオの発動を防ぎきれなかったのは、俺のせいだ。
「責任をとってくれ、クラウドちゃん、いや、クラウド!」
聞かなきゃよかった、と、きっと俺は、後で確実に後悔する。けれど、もう遅かった。廃墟に響き渡るような大声で、奴は言った。
「花ヨメ探しはもうヤメだ。俺の、おムコさんになってくれ!!」
そうはわかっていたが、仕事は仕事だ。商売を始めたばかりで、信用を落とすわけにもいかず、俺は仕方なく、エッジの道をフェンリルで走った。
街は、日々成長している。昨日はガレキの山だった箇所が、今日は道になっている、なんてことも少なくはない。
特に、このあたりは変化が顕著で、日々通っていないと、迷子になってしまうことも多い。そんなゴミゴミした一角を待ち合わせ場所に指定するあたり、やはり、客はろくでもない人間のようだ。
「お前が、配達屋か?」
待ち合わせ場所にいた男は、くぐもった声で尋ねた。電話の声の男だ。彼は、顔を見せないためにか、深くフードを被っていた。
「用件はなんだ?」
周りに、人の姿は無い。けれど、遠巻きに様子を窺っている、汚い呼吸は隠せていない。
「あんたに、逢いたがっている人がいる」
「断る。俺の仕事は、荷物の配達だ」
「残念ながら、あんたに拒否権はない」
男がフードを脱いだ。それが合図だったのか、ガレキの隙間から、隠せない気配をかもしだしていた連中が、わんさと飛び出してきた。
俺は、ため息を漏らした。やっぱり、ろくでもない仕事だった。いや、仕事ですらないようだ。
いくら人数を集めてみても、気配を断つこともできないことを考えれば、俺に敵う奴らじゃない。さっさと終わらせて、セブンスヘブンへ戻らなければ。
「おっと、動くなよ。たとえ元ソルジャーでも、鉛玉はキツいだろ?」
ニタニタ笑う男たちに囲まれて、俺の指は固まった。だが、こいつらの意表をついて始末するくらい、わけはない。
しかし、先手を打たれてしまった。ガレキの山の一番上に、夜の光を集めて煌めいたハゲ頭に、俺は目を奪われた。
「ほひ」
独特の笑い方、腰を揺さぶる奇妙な行動。嫌な予感は的中した、あんなやつ、あいつ以外にいるはずがない。
「久しぶりだの~、クラウドちゃん」
バカとナントカは高いところが好きだというが、奴もその一人だったようだ。ガレキの上で大げさに体を揺らし、バランスを失くして、そのまま尻から転げ落ちた。
ドン、と、大きな音を立てた男に、周りの連中が、『ドン!』と騒いで集まっていく。なんだ、この小芝居は。俺は呆れて、この場を離れるタイミングを見逃してしまった。
「お前……、生きてたのか」
今はなきミッドガル、六番街スラム、通称ウォールマーケット。その奥を陣取って、こずるい商売で悪趣味な御殿を建てていた小悪党、ドン・コルネオ。ウータイでの崖から落ちて、お陀仏したかと思ったが、まさかこんな形で再開することになろうとは。
「ふん。あれから俺がどんなに苦労したかお前にはわかるまい。そう、話せば長くなるけれど……」
「興味ないね」
しんみりとしたムードを切り裂くように、冷めた声で言い放った。相手が奴だとわかったから、もうこれ以上この場に留まる必要もない。
「相変わらずだの~。あの時はあんなにかわゆかったのに」
「帰るぞ」
「ちょっと待った!」
二年前、奴に気に入られる為に恥ずかしい恰好をした記憶など、さっさと消し去ってしまいたい。踵を返した俺に向かって、連中は下ろした銃口を突き付けた。
「探したぜ~クラウドちゃん。エッジの掲示板でお前のチラシを見つけた時は、運命だと思ったぜ!」
最初は派手な方がいい、と、マリンたちの口車に乗せられて、ばら撒けるだけばら撒いたのが逆効果になったようだ。ため息を漏らし、振り返って睨みつける俺の視線を恐れずに、奴はぺらぺらとしゃべりだした。
「花ヨメ探しは邪魔されるわ、メテオは降ってくるわ、俺の人生はお前のせいでメチャメチャだ」
奴の言い分は、半分は正解だった。奴が知っていたかどうかはわからないが、確かに、メテオの発動を防ぎきれなかったのは、俺のせいだ。
「責任をとってくれ、クラウドちゃん、いや、クラウド!」
聞かなきゃよかった、と、きっと俺は、後で確実に後悔する。けれど、もう遅かった。廃墟に響き渡るような大声で、奴は言った。
「花ヨメ探しはもうヤメだ。俺の、おムコさんになってくれ!!」
【 続かない 】
【 END 】