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パンツがない
神羅カンパニーに就職したからと言って、誰もが金持ちになれるというわけではない。この春に上京してきたばかりの等級の低い兵士──俺なんかの給料は、スラムの売店のアルバイトと同レベルのものだった。
故郷から持ってきた荷物は、バッグ一つに収まるだけの小さなものだった。履き古した靴、母さんの縫ってくれたタオル、ソルジャー募集のポスターの写し、そして着替えが二組。
住む場所と制服は会社が用意してくれたけど、食費や光熱費などはニブルヘイムの相場の倍だ。節約しながら実家に仕送りをすると残りは僅かで、自然と自分の使う分を後回しにしてきてしまった。
元々不自由は感じていたし、もうそろそろ買い足さなければいけないことはわかっていた。服は毎日着るものだし、裾や袖がくたびれて糸が出ているところもあった。
だけど毎日忙しくて、疲れているからなんて自分で自分に言い訳をして、服屋に行かずに秋になった。本当は場所がよくわからなかったし、人に聞いたり店員と話すのに気後れしたんだ。
そんな言い訳をせずに、さっさと買い足しておけばよかったと俺は心から後悔した。寝ぼけたままランドリーサービスに袋を預けたのも良くなかった。
下着がない。今朝まで穿いていた分を洗ってはみたけれど乾くのにはまだ時間がかかりそうだ。
「やばい」
口にすると、焦りはどんどん高まってきた。もうすぐ始業時間になる。早く行ってやらないと夜勤の仲間は疲れ切っているだろう。
この時間、まだ店は開いていない。濡れたパンツで出かけてるべきか? いや、制服に沁みたら周りにあらぬ誤解を与えてしまう。ノーパンで外に出る? 有り得ない。もし気づかれたら……いや、みんながパンツを穿いてるかどうかなんて気にして生きてる奴はいないし、人にパンツを見せるような機会なんてないはずだ。
大丈夫だ、大丈夫。俺がパンツを穿いてなくてもきっと誰も気づかない。早く行かなきゃ、もう出る時間だ。そこまで考えて、はぁ、とため息をついたところで、ピリリリリ、とけたたましい電子音が響き渡った。
「うわっ!?」
俺はビックリして、ベッドの上の携帯電話を凝視した。狭い部屋でノーパンで、たかが電話の着信音にビビり上がって、一体何をやっているんだ。気恥ずかしくなってきて頭を振ると、湿ったパンツに背を向けて俺は携帯に腕を伸ばした。