MEMO

【ツォンエアSS】不良郵便屋のビタースイート

  • 2013/02/14 20:58

いつか書くかもしれないけどとりあえず今書いておくネタメモです。
読んでみようという方は↓のリンクからどうぞ。

ザックス←→エアリス前提のエアリスとツォンのバレンタインSSです。

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【 不良郵便屋のビタースイート 】

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街はバレンタインなるお祭りで賑わっていたけれど、エアリスがチョコを渡したい相手といえば、一人しか思い浮かばない。
あの人にチョコレートを渡したくても、あの人は任務に行ったっきり戻ってこないから、いつかあの人に渡す時のために、練習のつもりで、エアリスは一生懸命チョコを作った。
作るまでは楽しくて、テーブルの上はチョコでいっぱいになったから、花を買ってくれたお客さんに、チョコを配ろうと思いつく。

ミッドガルの寒空の下、カップルに花を売って、花売業はいつもよりも繁盛していた。
最後にありったけの花を買っていったキザ男のせいで、エアリスのかごの中には、チョコレートしか残らない。
お客向けの義理チョコと、渡す相手のいない本命チョコ。
いたたまれなくなって、帰ろうとしたエアリスの前に、いつものタークスが現れる。
まるで、エアリスの仕事が終わるのを見計らっていたかのように。

「バレンタインもお仕事なんて、大変ね」
「君が協力してくれれば、すぐに終わるんだが」
「今日くらい、もっと気の利いたこと言えないの?」

せっかくのお祭り気分を害されて、エアリスは頬を膨らませる。
踵を返し、歩きだそうとするエアリスを追うように、ツォンが黙って歩き始める。

「ついてこないでよ」
「なら、一緒に来てくれるか?」
「絶対イヤ」
「だろうな」

ツォンも、そう簡単にエアリスが折れてくれるとは思っていない。
それでも、これが上から彼に命じられた『仕事』であったし、そして今日は、うるさいほどの街の声と、類まれなる彼の勤勉さが、彼の副業が必要であることを彼に予想させていた。

「ねぇ、ツォン。あなたはチョコ、もらったの?」

街灯の灯る町並みを、エアリスが先に歩いて行く。
花籠を後手に持って、上を向いて歩くエアリスの息は白い。

「甘いものの美味さは、私にはわからない」
「えー、あんなに美味しいのに」

もったいない、と言いながら、エアリスが振り返った。
険しい表情で、ツォンの無粋さを責め立てる。

「食べず嫌いなだけよ。食べたら、きっと好きになる。そうだ!」

エアリスの口調は、スラムの子供たちに言い聞かせるときのように早口だった。
花籠に手をいれると、エアリスの指が、一番大きな包みに触れた。

誰かのために作ったのに、これはきっと、その誰かに味わってもらうこともなく、ゴミ箱に消えていく。
せっかく作ったのに、自分で食べるなんて辛すぎるし、お客に渡すには大きすぎた。
誰かに食べてもらえるならエアリスの挫けた労力も、少しは報われるかもしれない。
エアリスの気持ちは、そんな安易なものだった。

「私が作ったの。よかったら食べてみて。初めてにしては、うまく出来てると思うのよ」

二人の関係は、なんとも表現し難い。
少なくとも、道を行き交う人達には、きっとわからないだろう。

今この瞬間、エアリスがどれだけツォンをときめかせ、そしてどれだけ傷つけているのかを、エアリス自身も自覚していない。
そしてツォンは、喜ぶこと、傷つくことの愚かさをわかっていて、また同時に、エアリスに全く非がないことを理解しているにも関わらず、エアリスを傷つけると知りながら、あえて首を横に振った。

「遠慮しておく」

そっけない物言いに、エアリスの心が、ひくりと震えた。
誰にも受け取ってもらえないことが、寂しくて、悲しくて。

「そう」

手を引くエアリスの笑みは硬く、睫毛は儚げに揺れていた。
そんな顔を、見ていられない。
たとえそれが、自分の為した言動の結果であろうとも。

ツォンは、す、と、手を差し出した。
上向きの掌に、エアリスが驚いて、顔をあげる。

「渡したい相手が、他にいるんだろう?」

寒そうにコートを羽織り、マフラーを巻いたエアリスの髪には、ピンク色のリボンが結かれていた。
きっと彼女は、彼を思ってそれを作ったに違いないのだ。

そんなチョコレートは、美味しいに決まっている。
美味しくて、甘くて、ほろ苦くて──。
そんなものを食べたりしたら、どこかにいるはずのあの男に、呪われてしまうかもしれない。

「渡しておく」

ツォンの言葉に、エアリスが目を丸くした。
白い息を弾ませて、彼女が尋ねる。

「いいの?」

彼についてのことならば、エアリスはそんな、愛らしい表情を見せるのだ。
普段の仏頂面でない、純真な少女の笑みが、ちくりとした痛みを伴って、ツォンの胸をときめかせる。

「会えたら、な」

エアリスの喜びに、ツォンが小さく水を差した。
それでも、『もしかしたら』の可能性は、エアリスには十分魅力的だった。

エアリスよりも少し大きな掌が、エアリスに向かって広がっている。
そこに持っていたチョコレートを乗せようとして、エアリスが手を止めた。

眉を寄せるツォンの前で、エアリスが小さくため息をついて、そして、やわらかな笑みをこぼす。
花籠の中にチョコレートをしまって、エアリスが取り出したのは、小さな手作りのパッケージだった。

「それ、あなたにあげる」

今日、花を買いに訪れた人々の顔を華やかに彩ったチョコレートが、ツォンの手の中にあった。
驚き、何故、と問いたがるツォンに、エアリスが答える。

「あの人には、自分で渡したいから」

二人の距離が近づいて、冬の寒さに凍える指が、少しだけ暖かくなった。
触れるまでもなく離れてしまった二人の距離に、ツォンは安心した。

気恥ずかしくなって、エアリスが駈け出した。
すぐ近くにあった駅に向かいながら、エアリスが言う。

「もう、ついてこないでね。あなたがきたら、お母さんがビックリしちゃう」

掌に乗ったチョコレートを握り、それをコートのポケットにしまいながら、ツォンが寒さに掠れた声を出す。

「気をつけろよ」

監視任務も、副業も、今日は失敗に終わってしまった。
詫びる思いを噛み締めて、怠惰を恥じながらも尚弾む心を押さえつけて、ツォンはエアリスの乗った列車が発車するまで、彼女の後ろ姿を見送っていた。

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