- NOVEL
- Dissidia Final Fantasy
- Sephiroth x Cloud
- MODE:ASSIST
MODE:ASSIST
クリスタルを追い求め、コスモスの祝福を受けた戦士達は、崩れ行く世界を駆け回っていた。秩序を司る女神は、この世界の命運を十人の戦士に託した。
彼らは散り散りばらばらになり、中でも、フリオニール、セシル、ティーダ、そしてクラウドの四人は、順調に歩みを進めていた。
道中、カオスの放った軍勢、イミテーションが、戦士たちの前に立ちはだかった。虚構の存在である彼らは、本物の強さに比べれば大分劣るが、それでも群を成して襲ってくるものだから、煩わしいことこの上ない。
どうやら、イミテーションたちはコスモスの気配に引き寄せられてきているようだ。道なき道を踏み進む戦士たちに、彼らは容赦なく襲いかかってきた。
強い力と力の衝突は、様々な軋轢を生む。その結果がライズという神秘的な現象に繋がるわけだが、強すぎる衝突は世界の崩壊を早める結果になりかねない。
二柱の神々の内の片方が弱まって、混沌が侵食しつつある世界を、これ以上傷つけるわけにはいかない。襲い来るイミテーションたちを迎え撃ち、クラウドたちは、一旦別れることにした。
ジタンのイミテーションは俊敏だった。駿足なイミテーションを誘導し、ねじまがった時空を駆け抜けて、クラウドは闇の世界に辿り着いた。
始まってみると、展開したのは目まぐるしい空中戦で、クラウドは少々苦心した。二本の短刀を自在に操り、イミテーションはクラウドの体力を削いでいった。
相手は細やかな攻撃でクラウドの動きを奪い、大きな衝撃を繰り出してくる。
翻弄されてはいけない、一撃で、確実に仕留めなければ――。
歯を食い縛ったクラウドの放ったブレイバーが、イミテーションの体を両断した。金切り声にも聞こえる不快な断末魔は、時空の狭間に溶けて消えていった。
早く、仲間の元へ戻らなければ――。
そう思って踵を返したのに、戦いの残り香にいざなわれるように、新たなイミテーションが次々に襲い掛かってきた。
不毛な戦いをこなすのは本意ではなかったが、降り懸かる火の粉は払う主義だ。連戦を重ね、彼らを塵に帰した後、闇の世界に辿り着いた頃には、クラウドの体には相当な疲労が蓄積されていて、肩に担ぐ剣は重く圧し掛かっていた。
螺旋状に渦巻く光の向こうは、どす黒い闇に繋がっている。神秘的な場所なのに、なんだか心寒くなるような、そんな場所だった。
クラウドは、あたりを見回した。仲間たちの姿はなかった。
皆、イミテーションとの戦闘に手こずっているのだろうか。倒せば倒すほど、イミテーションたちは力をあげてきていて、それほどまでにコスモスが弱体化して、混沌の力が幅を利かせているということなのだろう。
性急に彼らと合流することが必要だと思われた。クラウドは息を呑み、闇の世界で大きく足を踏み出した。
急にクラウドは、妙な寒気に襲われた。いつまで経っても、この感覚には慣れそうにない。忌々しく、そして、煩わしい感覚だ。
敵の襲撃を迎え撃とうと、クラウドは背負う大剣を抜いた。ガキン、と大きな音が響き、それは肉と骨とに衝撃を与えた。
イミテーションの攻撃には、躊躇も感情も無い。だからこそ、こちらも気兼ねなく応戦できるというものだ。
遠くの石柱の頂に立つイミテーションが、聞くに堪えない笑い声を響かせている。氷の塊を放ったイミテーションは、膝を打ち、聞くに堪えない笑い声を響かせていた。
クラウドは彼に対して、カオス軍の中でも特別な苦手意識を持っていた。ブリザガに続き、うねるような炎弾が三方向から放たれて、クラウドは密やかに嘆息を零し、剣を握りなおした。
「話の通じる相手じゃない、か…」
憂愁は一瞬で、地を蹴ったクラウドは、ファイガを乗り越え、闇の世界を走り出した。
身体には連戦の疲労がのこったままだったけれど、そんな事情を汲んでくれるとは到底思えない。それがイミテーションであれば、尚更だ。
幽玄の道化、ケフカ・パラッツォを乗せた石柱に、クラウドは大きく剣を振りかぶった。衝撃は世界を揺るがして、荘厳な造形物がガラガラと音を立てて崩れていく。クラウドは、様々な魔法を操る希代の術師の幻影を、戦いの舞台に引きずり込んだ。
崩落に巻き込まれぬように地を蹴って、柱の残骸の間から標的を探した。相手は大袈裟な魔法を好む好戦家だ。至近距離から絶え間ない攻撃を展開すれば、体力を削らずに打倒できると考えた。
「はっ! ふっ!」
剣を右へ左へと打ち払い、視界を晴らしてその先にいるはずの相手を切り裂いた。しかし、そこには粉々になった石柱の残骸が散らばるだけで、敵は忽然と姿を消していた。
失策った、と、気づくのが遅かった。背中にいやな笑いの気配を感じ取った次の瞬間、ノイズのかかった声で、それは言った。
「なめるな…」
鋭い翼が背中に突き刺さり、クラウドの口唇から嗚咽が漏れた。そのまま受身も取れずに地面に叩きつけられて、クラウドは自らの打ち壊した柱の欠片を浴びる羽目になった。
「ぐ、く……ッ」
歯を食い縛り、クラウドは顔を上げた。
視界は一瞬ふらついたが、まだ立てる。しかし、悠長にしている暇はない。
周りの空気がヒリついて、迸る電流が世界を揺るがせる。足裏に力をこめて地面を蹴りだすと、クラウドは横に転がり出て、難を逃れた。
青光りする稲妻を発した男へとファイガを繰り出したが、苛立ちを煽る歩き方で奴は難なくそれを回避する。クラウドは舌打って、握りなおしたバスターソードと共に、再び敵へと挑みかかった。
こんなところで足止めを食っている場合じゃない。早く、仲間のもとへ戻らなければならないのに。
募る苛立ちは焦りとなって、クラウドを蝕んだ。死角から近づいて斬劇をお見舞いしたいのに、奴ときたら飛んだり跳ねたり、まったくもって煩わしい。
追いかけても逃げていくから、得意の接近戦に巻き込むこともできない。歯噛みしたクラウドは地面に立って、おどけてみせるイミテーションを鋭く睨みつけた。
「星よ…、降り注げ!」
短い詠唱の後、クラウドに導かれた小隕石が、闇の世界に堕ちていく。逃げるイミテーションを追いかけて、地面にぶつかって轟音を立てた。
イミテーションは、ここぞというときに驚くほどの俊敏さを発揮した。空中を滑るように移動したかと思うと、禍々しい炎を呼び出した。
詠唱は不発に終わり、脱力感だけが残った。くねくねと動くファイガの存在はわかっていたが、すぐに対応することができなかった。地面に突き刺した剣を引き抜こうとしたクラウドの脇を、灼熱の炎弾が突き焦がした。
「ぐぁ……!!」
視界が弾け、剣を握る力すら、痛みに焦がれて焼け落ちた。劈く魔法に踊らされたクラウドはあえなくブレイクし、闇の世界に倒れこんだ。
「ク……、ふ……」
なんとか身を起こそうとしたけれど、もはや抗う体力も残っていない。後一撃食らえば、ひとたまりもないだろう。
腕を折り、顔を上げると、ぼやけた視界の先で、詠唱を唱えるイミテーションの姿があった。呼び出された三角が、痺れた音を奏でて、三方からクラウドへと迫り来る。
「…負けは…、負けか…」
仲間たちに不甲斐ない姿を見せることは意に反するが、もはや、あがくこともできやしない。自嘲の笑みに口隅を歪めたクラウドの耳に、思ってもみない男の声が響いた。
「私のものに手をだして、覚悟はできているんだろうな」
涼やかな声には、聞き覚えがあった。流れる銀髪がかおる音も、迸る闘気も、底冷えするような眼差しも。
長すぎる刀は、美しい程に鋭い煌きでもって、トラインを射殺した。慈悲もなく分断された電子が悲鳴を上げて、乾いた空気だけが残った。
「耳障りだ」
闇に響く冷えた声が、イミテーションの独特で不揃いな笑い声を威圧する。跳んだ男の黒コートの後姿がぼやけた視界に映り、クラウドの理解はようやく現実に追いついた。
「舞え! …見えまい」
神速で駆け抜けた男の刃が、幾重にも連なって標的を斬りつける。イミテーションは無尽に切り刻まれて、苦鳴とともに地面に叩き付けられた。
闘っている、セフィロスが、どうして――。
驚きと、困惑とに拉ぐ顔を上げたまま、クラウドの魔晄の瞳は、正宗が八つに連なるのを見た。
「斬る――消え去れ」
戦闘に急に割りこまれ、イミテーションは困惑したようだった。不意打ちに圧され、無惨にブレイクしても尚、諦めずに立ち上がろうとしたイミテーションに、無慈悲な刃は振り下ろされた。
一振りの刀がイミテーションを八つ裂いて、それは耳に痛い叫び声をあげる。カオス側であるはずの男の凶行の餌食となって、憐れなイミテーションは闇の藻屑となり消えていった。
重い体を引きずって、クラウドはなんとか上体を持ち上げた。膝を折り、手負いの獣のように地を這う兵士へと、冷えた靴音が近づいてきていた。
「なんで…、アンタが……」
残る力を振り絞って起き上がろうとしたが、体への負担は大きく、膝立ちの体勢で落ち着いた。ハァハァ、と、乱れる呼吸の隙間から声を紡いで、クラウドは尋ねた。膝の上に手をついて、重そうな眉を持ち上げるクラウドの傍らで、男は足を止めた。
「無様な姿だ」
嘲笑が音に乗り、それを聞いたクラウドの眉根に、厳しい皺が刻まれた。逞しい腕が伸びてきて、反発する間も与えずに、苦悶する青年の襟首を掴む。強引に引き起こされ、ふらつく爪先がようやく地についた格好だ。息苦しげに嗚咽を溢し、セフィロスの腕を掴むことで、ようやく呼吸を確保した。
「…ッ、ク……」
引きずり出したクラウドは、傷だらけだった。侮蔑と嘲弄の視線を浴びながら、クラウドの頬はピリリと引き攣った。
「いい顔だ」
埃と、傷から染み出る血に汚れた顔を見つめ、セフィロスは陶然と瞳を細めた。その視線を受けるクラウドは、怖気の走るほどの不快感に背中をゾクりと竦ませる。
魔法に翻弄され敗れるなど、耐え難い醜態だ。そんな姿を、仲間ならいざ知らず、この男にだけは知られたくなかった。それなのに、見られ、知られただけでなく、挙句の果てに助けられるなど、我慢ならない。
「…しかし、気に入らないな」
満身創痍というのに、魔晄の瞳を尖らせて、彼は果敢にも睨みつけてくる。それはセフィロスにとって、心地よいギラつきだった。しかし、クラウドを引き絞る腕の重みを心地よいと感じながらも、腹底に憤りが蠢くのを彼は感じていた。
「イミテーション相手に、随分苦戦していたようだ」
それを差し向けているのは誰なのか、知らないわけでもあるまい。セフィロスの言動を理解できず、クラウドは尋ねた。
「…イミテーションは、アンタたちの持ち駒じゃないか」
「私が戦うのは、お前だけだ」
反発する言葉を封じる、力強い意思を感じた。セフィロスの双眸は、ライフストリームの源泉に近い淡い色合いで、陶然とクラウドを見つめていた。
セフィロスは、カオスの力でも御しきれない男だ。そうとは気づいていたけれど、横暴で傲慢とも言える彼の発言に、クラウドは開いた口唇を塞げずにいた。
それを見下ろしていたセフィロスは、ふ、と、萌えるように笑みを溢した。
先ほど奪ったばかりのポーションを、今こそ使う時だ。そう考えた彼は、片手でボトルの封を切り落とし、その一口を口に含んだ。
「なにを……んむ…!?」
触れ合う口唇は冷たくて、クラウドは瞠目した。交わす接吻けを拒もうと暴れたけれど、体力を失った今、引き寄せる男の力に抗うことはできなかった。
「ん…、っふ……」
こんな行為、心安く許してはならないと思うのに、口唇から染みこんできたポーションがパチパチと口腔に弾け、余計な力が削ぎ落とされてしまった。
二人の舌は同じ色、同じ味に溶け合い混ざり合っていて、傷ついた体に沁みこむ癒しの温もりに、腕を掴むクラウドの指の力が緩まった。
「……ふ……」
重ね合わせ、送り終えたセフィロスは、小さな笑みを溢した。それだけで終えてやるつもりなど、毛頭無い。緩んだ口唇の合間を押し開くように舌をあて、滑り込ませるように中を探った。
運命を分かった二人だから、こんな機会はそう易々と巡ってくるものでもない。ポーションの、独特で爽やかな痺れを感じながら、セフィロスはクラウドの口腔を舐め取った。
頬裏まで舌を這わせ、クラウドの喘ぐ舌を絡ませた。上唇や、下唇も丹念に潤ませて、息を吹き込むように口唇を押し当てた。
「ぅ…、ン……」
クラウドの四肢からは力が抜け落ちて、恍惚とした接吻けが心を溶かした。爛々と輝いていた瞳は瞼に包まれて、爽やかな味わいを塗りつけられた舌が、ビリリと弾ける。口移されたポーションのお陰で、忘れていた力が漲ってくるのが判った。
接吻けに耽るセフィロスが覆いかぶさってきたお陰で、足裏と踵が地面につく。なおも体重をかけてこようとする男を強引に押しやって、クラウドはセフィロスを引き剥がした。
「はぁ…っ、ク……いきなり、なにするんだ!?」
口唇を腕で拭い、ぴりぴりとした残味を嚥下する。フリーエアダッシュを逆向きに発動させて、十分な間合いを取ることで、クラウドはようやく胸を撫で下ろした。
腕の中にあった青年を失って、セフィロスは眉を顰めていた。しかし、先ほどまで無力であった青年が漲る力を湛えていることを確かめると、その口隅には好色で好戦的な笑みが浮かぶ。
「…お前が戦うのは、私だけだ、クラウド」
涼しい顔で、セフィロスはふわりと背を起こした。その手には、幽玄の道化を射抜いた伝説の妖刀が確りと握られていて、血に飢えた刃がクラウドへと向けられている。
クラウドは、深くため息を漏らした。
惨めな姿を見せた挙句、癒しまで施されては、文句も言えない。感謝なんてしたくもないし、けれど、なにもしないのも後味が悪い。
この男とだけは、貸し借りなど作りたくない。複雑な感情を奴のせいだと結論付け、意味を手に入れたクラウドは、顔を起こした。
「…こんな戦い、さっさと終わらせよう…」
そう呟くと、バスターソードの柄をギリリと握りなおし、クラウドは地を蹴った。くつくつと喉を鳴らして、セフィロスは攻撃を受け止めた。
クラウドの傷つく顔も、苦しむ姿も、自分がそうせしめてこそ、充足できるというものだ。挑みかかった青年に長い刀を振り上げて、昂ぶる高揚を隠しもせず、癒えない渇望を口にした。
「私を倒して見せてみろ」
闇の世界は、再び戦場になった。柱の崩れる轟音と、剣が噛み合う鋭い音に、空気の色が変わっていった。
時空の裂け目を伝い、新たに三つの光がこの世界を訪れた。太陽の字を頂く少年が、深淵へと続く階段を一番に駆け下りてくる。若き義士はそれを追いかけて、暗黒騎士がそれに続いた。
「見つけたぞ、セフィロス!」
「俺のポーション、返してもらおうか」
「待って、二人とも」
翻る黒のコートを目敏く見つけ、ティーダが叫んだ。セシルの声に、フリオニールが足を止める。闇の渦巻く世界で、力と力が激しくぶつかり合っている。
「あいつ、クラウドにまで――ッ」
フリオニールが憤る傍らで、ティーダが軽い嘆息を溢す。
「お取り込み中ッスね」
呆れたように呟いて、ティーダは階に腰を下ろした。
先刻、セフィロスがイミテーションとの乱戦に割り行ってきた。激しい戦いの最中、ポーションを奪って姿を消した彼を探して方々彷徨い、ようやく巡り合った彼は、仲間と激しい戦闘を繰り広げていた。
「なにしてるんだ、早く助けにいかないと」
「なーに言ってるッスか」
間の抜けた声で、ティーダは言った。バカにされたような気がして息を詰め、同意を求めて顔を上げると、フリオニールの視線の先で、セシルもまた、緊張感の無い笑みを鎧の中に隠していた。
「邪魔しないでおこう」
正義感が強く、仲間思いなのがフリオニールのいいところだと、二人ともわかっていた。戸惑って、世界を見下ろすフリオニールの眼が、闘うクラウドの姿を見つけた。
「凄く、楽しそうだから」
汗を散らし、精神を尖らせて、クラウドが闘っている。歯を食いしばる彼の横顔は、仲間同士の手合わせやイミテーションとの戦闘よりも、充足した闘志を迸らせていた。
遠慮も無く、容赦も無く、戦う二人に水を差すことはできない。もしかしたら、戦う意味を探る青年の助けになるかもしれない。
先ほどのティーダと同じように嘆息して、フリオニールはその隣に腰を下ろした。余計な手出しを己に封じて、両腕を組んで目を閉じるのを見守って、セシルは柔い笑みを溢した。
三人の見守る中で、二人は戦っていた。優雅に、華麗に、挑みあい削りあうその姿は、秩序と混沌の縛りも無く、己の内から溢れる思いをぶつけ合っていた。