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オヤジのおさがり
ルーファウス・神羅は、社長就任後すぐに本部組織の再編成を命じた。神羅カンパニーの扱うサービスを司る主要四部門はさておき、まずは総務部や経理部、人事部はじめとする管理部門のトップに自分を置いた。
何万人もの社員を要する神羅カンパニーの経営方針、人員配置、それら全てに自分の決定を必要とさせた。それによって膨大な情報がルーファウスの手に齎され、ルーファウスの影響が全社員に行き渡るようになった。
「出してくれ」
伍番街にある子会社の役員会に出席した後、ルーファウスは公用車に乗りこんだ。本社に戻るまでの短い時間で書類に目を通し、部下からの報告を受ける。新社長に就任したルーファウスが信頼している『部下』とは、直属の配下となった総務部調査課──タークスのことだった。
「A社買い上げの件ですが、予定通り書類の締結は完了しました。新役員からの報告書はお手元にご用意しています」
「今見ている」
ルーファウスは一切の無駄を廃した。プレジデントの統治下で安定していた本社の改革も躊躇なく行なった。
社長職のサポートを行う秘書課の解体もその中の一つだ。神羅カンパニー秘書課──各種書類の作成、スケジュールの管理という名目で、プレジデントは自らの愛人たちを近くに置いていた。プレジデントの制御によって彼女たちは役目を解かれ、容赦なく別部署や子会社へ散らばって行った。
「一人くらい残しておかれてはどうですか?」
音もなく嘆息した後、ツォンは言った。上席への提言など運転手のすべきことではないが、それも新社長の多忙すぎる状況、かかりすぎる負担を懸念してのことであった。
多すぎる言葉で説明しなくとも、ルーファウスはツォンの言葉の意味を理解していた。年若ではあるけれど、幼い頃から後継として教育され経営者としての才能に愛されたルーファウスは今度も聡明さを発揮した。
「一人でも残そうものなら、かえって不都合だ」
書類をパラパラとめくる音が後部座席から聞こえてきていた。それら全てをしっかり読み込みデータは既に彼の頭に蓄積されていることをツォンは知っていた。信号が黄色に変わったのを見つけて、ツォンは余裕を持ったペースでブレーキペダルを踏みこんだ。
神羅カンパニー社長は人々の好奇の目に晒されている。後継者であるルーファウスの手前、秘書課が愛人たちの巣窟であったことを知る者は多くとも、これまで誰もそのことを公言せず追及もしてこなかった。
しかし、独身であり子供もいないルーファウスが社長職に就くことになり、巷ではその手腕だけでなくルーファウスの交友関係に注目が集まっていた。次のファーストレディには誰がなるのか、社外の人間が気にしている以上に、今はなき秘書課の女性たちも内心では『あわよくば』と思っていたことだろう。
「オヤジのお下がりなんて虫唾が走る」
社長になったからには身を固めた方が良いと提案してくる人間もいたけれど、ルーファウスは一切取り合わなかった。そればかりか、そう言ってきた人間を目に入らない場所へと退けた。
就任して何週間も経っていないが、ルーファウスの優秀さは既に多くの者が痛感していた。市民たちからの人気も上々で、そんな彼の近くにいる女性の存在は、それが例え業務上仕方のないことであったとしても醜聞の要因となりルーファウスの評価を下げる可能性に繋がっている。
「それに、必要ないだろう」
車を走らせるツォンは、その背中にルーファウスの右足を感じていた。彼の行儀が悪くはないのを知っている。それでいて、今そうして奔放に振る舞う青年の言外に含めた意味にツォンは眉間の皺を深めた。
「……後十分で、到着予定です」
渋い表情のまま、ツォンは言った。アクセルを踏む爪先に力が入り、それに気づいたルーファウスが笑う声が運転席にも届いてきた。