JINGLE☆JINGLE<07>

表示設定
フォントサイズ
フォント種類
  • aA
  • aA
段組み
  • 縦書き
  • 横書き

「やだーー! クラウド超似合うーーー!」

自分が用意した衣装を着たクラウドを見て、ユフィが腹を抱えていた。

「お前もようやく面白ェ奴になってきたじゃねぇか!」

シドにバンバンと背中を叩かれて、慣れない大声を出したこともあって、クラウドはその場で咳き込んだ。

バレットは声も出せないほど笑っているし、もしかするとそのまま倒れてしまうかもしれない。
シドを窘めるシエラも笑いを堪えられていなかったし、その旨に抱えられた赤ん坊は驚いて泣き出してしまっている。
リーブが「ひゅーひゅー」と一昔前のノリのまま囃し立て、その傍らに佇むヴィンセントは俯いたまま口許を綻ばせている。

一番堪えたのは、お揃いの帽子を被ったセフィロスの冷ややかな視線よりも、マリンとデンゼルの同情の微笑みだった。

「クラウド、無理しなくてもよかったのに」

マリンにそう言われ、デンゼルは笑いを堪えて震えながらクラウドから視線をそらす。
速攻で正体がバレてしまった上、二人に気を遣われていたたまれなくなったクラウドは、さっさと仕事を終えてしまおうと、急いで二人へのプレゼントを取り出した。

「え、もらっていいの?」

喜んだ様子でいるマリンに、クラウドは救われた。
マリンが包みを開けると、中には子供用の包丁セットが入っていた。

「大人用だと、大きすぎたから。それなら安心だしね」

最近よく手伝ってくれるから、そろそろいいかなって、と、ティファが説明した。
マリンは飛び上がって喜んだ。
忙しいティファを助けたいと、日頃から思っていたからだ。

「俺のはなに?」

マリンの様子に期待を弾ませて、デンゼルも包みを開けていく。
自分の選んだプレゼントで喜んでくれるだろうか、と、クラウドは内心ドキドキしていた。

「これって……」

開けてみて、デンゼルは驚きに目を瞬かせた。
デンゼルの右手にあったのは、彼の身長に合わせた刀身の一振りの剣だった。

「初心者用に鍛えてもらった」

クラウドは、ぶっきらぼうに説明した。
懇意にしている武器屋の渾身の作品だ。
デンゼルの顔がみるみる明るくなっていく。

「いいの、クラウド!?」
「使うのは、俺といる時だけにしろよ」

クラウドの忠告に、デンゼルはこくこくと頷いた。
叫ぶようにありがとうを言って、シドに頭を撫でられるデンゼルを見て、クラウドはようやく安堵した。

久しぶりにメンバーが揃ったこともあって、パーティは大いに盛り上がった。
すすめられるままに酒を交わして、おお仕事を終えたクラウドの緊張も段々と綻んでいく。

シエラとシドが先に帰り、飛空艇のスタッフたちがバレットを連れ帰る。
マリンとデンゼルが寝室に向かうのを見送って、リーブとユフィ、ヴィンセントが帰路につく。
いつもの三人になって、ティファは集めた食器を洗い、セフィロスがスツールに腰掛ける。
ひげを外し、カウンターに腰掛けたクラウドが、はぁ、とため息をついたとき、ティファがカウンターの中から小さな袋を取り出した。

「はい、これ。プレゼント」

二つの袋は、それぞれそろいのリボンがかけてあった。

「今日は本当にありがとう」

まさか自分たちがプレゼントを貰うとは思っておらず、クラウドとセフィロスは互いに顔を見合わせた。
あけてみると、そこにはそれぞれマフラーが入っていた。

「一応、ペアになってるの」
「ティファが編んだのか?」

好きなモチーフが入っていることに驚いて、クラウドが尋ねた。
ティファはこくりと、はにかむように頷いた。

パーティの準備で忙しい中、いつの間に作っていたのだろう。
驚きながら、クラウドはそれを巻いてみることにした。
ティファが照れるのを見ていると、心があったかくなるような気がした。

「つけないのか?」

クラウドに促されて、セフィロスがしぶしぶマフラーを巻く。
二人が揃いのマフラーをつけている様子を見て、クラウドの心にあった温かさと同じものが、ティファの胸にもそっと咲いた。

「…これ、俺から」

ポケットの中から、クラウドがひとつの箱を取り出した。
え、と声を出して、ティファが目を丸くした。

まさか、クラウドからプレゼントを貰えるなんて──。
失礼だとは思ったけれど、デンゼルへのプレゼントで思い悩んでいたクラウドに、そんなことを考える余裕があるとは思えなかった。

「ミディールで買ってきたんだ。手に優しいって聞いて」

エッジにとどまっているティファとは違って、クラウドは世界中を飛び回っている分、時々こうしてその地の珍しいものを探してきてくれる。
水仕事を行っているから、ハンドクリームは重宝する。
それがミディール産だというなら尚更だ。
なにより、それをクラウドが選んでくれたということが嬉しくて、ティファは柔らかく笑みを浮かべた。

「あんたはなにかないのかよ」
「あると思うか?」
「いいのよ、クラウド」

ありがとう、と、ティファは言った。
こんな素敵なクリスマスを過ごせたことが、一番の贈り物。
口には出さなかったけれど、ティファの気持ちはクラウドには伝わっていた。
クラウドも、同じことを考えていたから。

とっておきのワインをあけて、三人で静かに乾杯する。
大事にそれを飲み干して、長かったパーティは幕を閉じる。

幸せにはきっといろんな形があって、けれど、今夜ここにいた人たちは皆幸せだと感じていたに違いない。
そんな素敵な夜が、一年に一度くらいはあったってかまわない。

サンタ帽を外し、そろいのマフラーを巻いて、白い息を吐いて家に帰った二人が、どんな夢を見たのかは、きっとまた別の話。