7R!!<03>

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DARTS

 ミッドガルの夜を涼しい風が吹き抜けていく。先刻乗り捨てたバイクは神羅の連中に見つかった頃だろうか。それならそれで構わない。偽装されたIDで撹乱できれば、この後の仕事がやり易くなる。
「そう言えば、随分腕が上がったみたいじゃねぇか」
 少し先を歩いていたビッグスが振り返った。ドキッとして俺は顔を上げた。ビッグスはこちらを見ながらダーツを投じる素振りを見せた。
「たった一日で越されるとは思わなかったぜ」
「わたしも。ティファとわたしと、どっちが先にウェッジを越えられるかって競ってたのに」
 七番街の夜は静かで、反神羅組織が人知れず作戦を開始したところで誰も目覚めてくる気配は無い。遠くの方に神羅カンパニーの本社ビルが視えている。す、と横に視線を逸らすと、昼間の出来事を思い出して俺はため息を吐きたい気分になった。
「クラウドさんも、大分スラムに慣れてきたんじゃないッスか? けど、オレに比べればまだまだッスね」
 得意げな顔でウェッジが親指を立てて見せる。もう少しで抜かせるところだったのに──。今度は堪えられなくて、俺は、はぁ、とため息を洩らした。
「でも、惜しかったじゃない。あと一投で記録更新でしょ?」
 俺だって抜かしてやるつもりでいたさ。ティファの記録を破ったところで満足する気はなかった。ティファにいいところを──昔の俺とは違うところを見せたいと思っていたのに、とは思ったけれど、仕方がない。
「スラムの心得その七。努力は実る、決して諦めるな、ってな」
「それ、ビッグスが言う?」
「俺は別のところで努力してるからいいんだよ。ダーツより今はコイツでな」
 ランキング下位のビッグスが持ってきていた武器のホルスターを叩いて言った。人気がない市街地で銃を抜いては流石に誰かに見つかった時言い訳のしようもない。
 昼間はバレットの娘をがっかりさせてしまって悪いことをした。ブルは決められなかったし、一位も逃した。俺の投じた最後のダートは的を外れて明後日の方向へ飛んでいった。
「どうなの、期待の新人さん。チャンピオンにはなれそう?」
 首を傾げてジェシーが訊ねる。いたずらっぽい笑みに触発されて、俺はちらりとウェッジを見た後ジェシーに向かって頷いた。
「すぐに追い抜いてやるさ」
「そうはさせないッスよ。オレも、もっと上を目指すッス!」
 新たな競争相手の参入は思った以上に喜ばれているようだ。後もう一歩だったんだ、落ち着いて挑めばそう難しいゲームじゃない。
「ほら、あの角よ」
 俺が決意を新たにしていると、ジェシーが歩く速度を早めた。ビッグスが続き、ウェッジも巨体を揺らして小走りに駆け出していく。
 月明かりの下、仲間たちの元へと集う俺の歩みも自然と早まっていた。