JINGLE☆JINGLE<02>

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グヮングヮンと、エンジンが轟音を響かせている。
シドの自慢の新型というだけあって、シエラ号の速度はハイウィンドを上回る。
その操縦部はガラス張りになっていて、空を切り雲を置き去りに駆け抜けていく爽快感は、少年を興奮させるのに十分だ。

デンゼルは、最前席で両手を窓に貼りつけて、下の様子を窺っていた。
その背中を眺めながら、クラウドはふとため息を洩らす。

シドは得意になって、どんどんスピードを上げていった。
エンジンが悲鳴を上げていて、空中分解でも起こしそうな勢いだ。

「ちょっと、出しすぎじゃないのか?」
「なあに、シエラ号の最速はこんなもんじゃぁねえさ!」

先日、エッジに駆けつけた時はもっと早く飛んだものだ、と、シドは自慢気に鼻を鳴らした。
曖昧に相槌を打ちながら、クラウドは内心ヒヤヒヤしたまま、艇長の好きにさせていた。

「なんだ、あれ?」

窓の向こうを指さしながら、デンゼルが言った。
飛空艇は、ちょうどウータイ上空に到達している。
崖を削って出来上がった像の群れが、少年を感動させている。

「この辺がウータイだ。あれは、ダチャオ像と言うらしい」

階段を降り、デンゼルの方へ向かって、クラウドは歩き出した。

なんの像で、誰が何のためにあんなものを彫ったのか、と、デンゼルは立て続けにクラウドに尋ねた。
困ってしまって、クラウドは、今度ユフィに聞いたらいい、と、返答を濁した。

「あんなの見たの、初めてだ」

デンゼルはミッドガルで生まれ、ミッドガルで育った少年だ。
メテオ災害後はエッジで療養していたけれど、こうして大陸の外へ出た経験はまだ数えるほどしかない。

この日デンゼルは、クラウドの仕事に着いて行くと言い張って、根負けしたクラウドと共にシドのもとを訪れていた。
配達を終え、シエラのお茶を頂いた後、飛空艇で送ってもらうのがいつもの流れだ。
飛空艇でいろんな場所を空から見るのが、デンゼルはたまらなく好きだった。

「楽しいか、ボウズ」
「うん」

最初はその呼び方に反発していたけれど、デンゼルはもう、シドに反発しなくなった。
ガッハッハ、と、大きな声で笑うと、シドは肩を揺らして続けて言った。

「そんだけ喜んでくれりゃあ、乗せた甲斐もあるってもんだぜ」

ダチャオ像を通り過ぎて、艇は海の上に踊り出た。
高度を落とすと、波が間近に迫ってくる。
風圧に煽られて舞い上がる水しぶきにデンゼルが目を輝かせていると、シドが言った。

「どうだ、オメー大きくなったら、うちのクルーにならねぇか?」

思ってもみない申し出だった。
デンゼルと、そして隣に立っていたクラウドが振り返る。

「飛空艇が好きなんだろ? 度胸もある。歓迎するぜ」

操縦桿を片手で握りながら、シドは親指を立ててデンゼルへと突き出した。

星痕は治り、少年の将来を妨げるものはもうなにもなくなった。
シドはこの星で一番のパイロットだ。
その彼が認めてくれているのだ、確かに、魅力的な勧誘ではある。

「でも俺、やりたいことがあるから」
「やりたいことォ?」

デンゼルは、クラウドを見上げた。
その視線に気づいて、クラウドの青色の瞳がデンゼルを捉える。

「俺、強くなりたいんだ」

クラウドは、ゆっくりと目を瞬かせた。
デンゼルの発言に、驚いているようだった。

「クラウドみたいに強くなって、みんなを守る戦士になるんだ」

つい先日、クラウドやシドがそうしていたように、街で暴れまわるモンスターを倒せるように強くなりたい。
泣きわめいて逃げ惑う人々を守っていられるように──。
それを、クラウドも喜んでくれると思っていた。
けれどクラウドは、す、と顔を上げて、デンゼルから視線を逸らした。

「だめだ」
「どうして?」

思いがけない返答に、デンゼルは驚いて問い返した。
けれどクラウドは、眉を難しく結んだまま、踵を返して歩き始めた。

「お前には、まだ早い」

コントロールルームの外へと続く扉に、クラウドは歩いて行った。
その背中を凝視しながら、デンゼルは愕然としていた。

「上昇するぞ! 舌ァ噛まねぇようにしっかり歯ァ食いしばれ!」

シドが、空気を打ち壊すように大きな声を響かせた。
窓についた手を握り締めて、デンゼルは、ぐ、と奥歯を噛み締めた。