JINGLE☆JINGLE<03>
背の低いグラスの中で、氷がカラリと音を立てる。
小麦色の酒を転がしながら、クラウドは、ふう、とため息をついた。
「だから、機嫌悪かったのね」
洗ったグラスを磨きながら、カウンターの中でティファが笑った。
日付が変わって、いい具合に酔った顔の客たちが家路についた頃、ようやくクラウドは安息のひとときを迎える。
「俺は、間違ったことは言ってない」
「でも、後悔してるんでしょ?」
ティファの前にいると、クラウドは自分の反応が歳よりも若くなってしまうことを自覚する。
眉を寄せて、視線を逸らして、くい、とグラスを傾けると、クラウドは反論できないがための沈黙を酒の味でごまかした。
カランカラン、と、ドアベルが音を立てる。
肩をぴくりと動かしたけれど、クラウドは振り返らなかった。
ライトを消し、看板を片付けてきた男が、寒い風を連れてくる。
ティファは、クラウドと同じ酒をクラウドの隣の席にコトリと置いた。
「閉めてきた」
「ありがとう。はい、お疲れ様」
風は、大分空気が冷たくなってきた。
客が大入りの時はまだいいが、三人しかいない店内も、少し涼しく感じられる。
セフィロスは、ティファのいうことをきちんと聞いているらしい。
ロングタイプの黒エプロンも、大分サマになっている。
腰元の紐をとくと、セフィロスはそれをカウンターに乗せた。
制服を脱いだウェイターは、客の隣に腰掛けて、グラスにそっと指を伸ばす。
「男の子って、いつもそう。クラウドも、昔はそうだったでしょ?」
「何の話だ?」
隣のスツールに腰掛けたセフィロスが、軽くグラスを持ち上げる。
ティファも自分のグラスを添えたから、クラウドも手を伸ばして、三人は密かに乾杯した。
閉店後のセブンスヘブンでこうして三人話をするのが、いつもの日課だ。
お揃いの酒を飲み交わし、一日の出来事を報告しあう。
なんだかまるで、家族みたいだ。
この三人でそうしていることが、おかしくもあったし、嬉しくもあった。
「デンゼルがね、強くなりたいんだって。クラウドみたいに」
名前を聞いても、セフィロスは誰のことかすぐにわからなかったようだった。
もう、ここで働き始めて何ヶ月も経っているのに、いい加減、身内の名前くらい覚えて欲しい。
「もう、戦いの時代は終わったんだ。目指したところで、ソルジャーにはなれない」
魔晄エネルギーの加工と利用は、神羅の専売特許だった。
本社ビルが壊滅し、社員も散り散りばらばらになって、魔晄照射技術は失われてしまった。
それに、星痕症候群の影響で、人々は、あれだけもてはやしていた魔晄エネルギーを忌避する傾向にある。
だから、ソルジャーが増えることはもう二度とないだろう。
「退屈な話だ」
グラスを傾け、氷を鳴らして、セフィロスは言った。
す、と横を向いてみると、セフィロスはつまらなそうに、グラスの中を覗きこんでいた。
モンスターは相変わらず存在しているけれど、この星は今、平和そのものだ。
戦うべき相手だって、今はすっかり牙を丸めて、エッジの片隅に鳴りを潜めているのだから。
「いいから、大人しくしとけよ」
「もう暫くは、な」
クラウドが釘をさすと、振り返るセフィロスが念を押した。
言葉につまって、小さく唸ったクラウドの前で、ティファがなにかを思い出したように掌を叩いて、奥へと歩いて行った。
「そうだ、二人に相談があったのよ」
二人でいたら、そのままズルズルと重い空気になってしまったところだった。
クラウドはティファがいてくれたことに感謝して、セフィロスは、眉を顰めてティファの動向を窺った。
「今年はやろうと思うの、クリスマス」
ティファが取り出したのは、飾り付けのされた小さなもみの木だった。
クラウドは瞠目し、セフィロスは目を細めて、赤いリボンに飾り付けられた小さなそれを見下ろしていた。