JINGLE☆JINGLE<04>
「ああ、それで…」
クラウドは、帰宅途中に見た光景を思い出していた。
記念碑の瓦礫が回収された跡地に、大きな樹が運び込まれて、作業員たちがそれによじ登りなにやら忙しく働いていた。
電球がついたコードを幾重にも巻きつけて、なにをするのかと思ったら。
かつてミッドガルで盛んだったイルミネーションを、再現しようとしていたのか。
「レノたちが頑張ってるみたい。どこのお店も飾り付け始めてるのよ」
クラウドがふと横を向くと、セフィロスは、いかにも面倒くさそうに眉を顰めていた。
昔から、彼はこういうイベント事には無頓着なきらいがある。
「だから、セフィロス。明日からはちょっと早めに来てね。色々手伝って貰うから」
「断る」
「店長命令です」
ティファは、セフィロスの威圧的な即答にも臆さない。
眉根を寄せて、目を鋭く尖らせて、ふう、とため息を洩らした後、セフィロスはようやく観念した。
「その分、給料は出るんだろうな?」
ぶつくさと呟く彼の姿を見るのは、なかなかに痛快だった。
思わず洩れた笑みを右手で隠すクラウドに、振り返ったティファが言った。
「クラウドもよ」
「え、俺?」
自分にお鉢が回ってくるとは思わずに、クラウドは間抜けな声を出した。
「デンゼルへのプレゼント、考えておいて」
クラウドは、目をパチリと瞬かせた。
掌の中では、溶けた氷が涼しい音を奏でている。
「マリンには、私が用意するから。男の子同士の方が、もらった時嬉しいものわかるでしょ?」
サプライズだから、二人には内緒にしてね、と、ティファは口唇に指を立てた。
それは了承したけれど、難題を与えられたクラウドはすっかり悩みこんでしまった。
「プレゼントって…、なにをあげればいいんだ」
「だから、それを考えてよ」
嵩の増えた手元のグラスを見下ろして、クラウドはため息をついた。
人を喜ばせることなど苦手なのに、機嫌を損ねたデンゼルを喜ばせる方法など、思いつく気がしない。
「クリスマスまで、もうあとちょっとしかないんだから。忙しくなるわよ」
ティファは、ふふ、と笑みを浮かべて、グラスを、くい、と傾けた。
夜中だというのに、彼女からは一日の疲れなど感じられなかった。
「楽しそうだな」
「お陰様で」
セフィロスの皮肉は、ティファには通用しなかった。
朗らかな彼女の笑みを見て、セフィロスは閉口して誤魔化すように酒を煽る。
クラウドは、俯いたまま暫く黙りこくっていた。
クリスマス、と言えば心踊るイベントのはずなのに、今年はなぜか、波瀾万丈になりそうな予感がした。